猿婿入り「猿沢や」で有名な民話ー女は自分が一番大事。

猿の婿入り
猿の婿入り

可笑しくて、やがて切なくて悲しい猿の婿殿。
それにしても、やはり女は強くてしたたか。今も昔もそれは変わらず。

スポンサーリンク

備中(現岡山県高梁市あたり)に伝わるお話。

むかしむかしある所に畑仕事に精を出すひとりの男がいました。

「いやぁウチの畑は広い、俺もたいしたもんだよな。
 それにしてもあんまり広くてかなわん!俺もトシかなぁ。

 ああああ~~~
 猿でもいいから手伝ってくれたら三人娘のどれかを
 嫁にやるのになぁ!」

それを聞いていた猿がひょいっと出てきて

「おう、おやじ、そりゃ本当かい?」

「あ!猿!
 えっ、お、おう。 しっかり働いてくれりゃ、娘をやるぞ」

「ぃよっし! まかしとき!」

そう言うなり猿は早速仕事に取りかかると男の倍の早さで
てきぱきと働くのでした。

男はたいそう喜び、こりゃあ使えると思いましたが、同時に

「いやぁ、困った、妙な約束をしちまったぞ」

娘たちがうんと言うはずもなく途方に暮れましたが
とにかく家に帰って娘たちに相談してみました。

「猿にしちゃかなりイケメンだし、なんといっても
 甲斐性があるぞ、どうだ?」

長女は
「は? サルの嫁? きゃはは!ウケるぅ~~」
と笑いながら出掛けてしまいました。

次女は
「なにそれ? 意味わかんないし」
とまったく無視です。

ところが三女だけは
「お父さん、それでお父さんとこの家が助かるなら
 私がお嫁に行くわ」
と言うのです。

「おお!、そうか!行ってくれるか」

男は涙を浮かべて三女の手を取り、何度も詫びながら喜びました。

「その代わり、嫁入り道具に大きな瓶(かめ)をひとつと、
 その中に裁縫の縫い針をたくさん入れて下さいね」

さてさて嫁入りの日、
猿は婿様の着物を着て、喜び勇んで娘を迎えに来ました。

猿は縫い針のたくさん入った瓶を背負い、二人並んで
嬉しそうに山へと向かいました。

山に入るには、ふもとの谷にかかる細い橋を渡ります。
季節は春、藤の花が見事に咲き誇っていました。

サルの婿が新妻に話しかけます。

「男の子が生まれたらなんと名付けようか」

「そうねぇ。猿殿の子ですから猿沢とつけましょう」

「うんうん、いいね! 女の子なら?」

「この谷の藤の花がきれいですから、お藤にしましょう」

「うんうん、そうかそうか。楽しみだなぁ!」

そう言っているうちに、ほそい1本橋でちょっと手が触れて
猿は谷底に落ちてしまいました。

たくさんの裁縫針が入った瓶を背負ったまま川に流されながら
猿は辞世の句を詠みました。

「猿沢や猿沢や、お藤の母が泣くぞかわいや」

****************************

この「かわいや」は、可愛いのでなく、かわいそうにという意味です。

猿は転落して流されながら、命を落とす自分を嘆くのでなく
自分が死んだら新妻がさぞ悲しむだろうと、嫁に来てくれた娘を思いやったのです。

ところが!!
これは娘が仕組んだ完全犯罪なわけですね~。

そして
このお話は備中だけでなく、新潟、山形、埼玉など各地にあって、
ちょっとづつ違うんです。

猿が引き受ける仕事は畑の草刈だったり、干上がった田に水を引いたり
畑の種まきだったりします。

「瓶に縫い針」も、「臼に餅」だったり、
「藤」でなく「桜の花」だったり。

嫁入りする娘が「お藤」なのもありました。

いずれも猿は川に落ちて溺死するわけですが、

可愛い可愛い新妻が藤の花(または桜の花)を欲しがるので、
猿は重い荷物を背負ったまま木に登り、もっと上のほう、もっと上と
せがまれてどんどん登ると細い枝が折れ、川に落ちるお話もあります。

どこのお話も、娘に殺意があったとはひと言も言いません。

が、聞き手は、したたかな娘のたくらみをはっきりと感じます。

例えば「縫い針」は、裁縫道具であると同時に呪具でもあったし、
「瓶」や「臼」は落ちるように計算して重いものを背負わせたし、
「臼」は落ちた後沈まずに流されるようにするためとも言われます。

父の沽券(立場?)を尊重し、家を守り、猿の希望も叶えた上で
結果的に我が身を最優先する。
(女性なら多少身に覚えのあることではないですか・・・?)

そんな娘の本意などつゆ知らず、猿の婿の詠む辞世の句も
いくつかありますが、いずれも悲しく涙をさそうのです。

「猿沢や猿沢や 流れ行く身はいとわねどあとのお文こ嘆くべじゃやい」

「さる沢に流るる命惜しくなしあとでお姫はお泣きやるらん」

「流るる命惜しくはないが、おふじ泣く声耐えられん」

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする